2015年05月13日

少女の墓を掘る

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鍛えたことなどまるでないであろう、節くれだった両腕を振るっている初老の男。人気のない深夜の墓地に、ザク、ザクという音がする。


男の周辺にうず高く積もった土。時おり、七色に光るペンライトで手元を照らしつつ、丸まった背中でハァハァと息をしながら一心不乱に、スコップで地面の一箇所を掘り返していた。彼が今、その手に抱き寄せようとしている対象が、絶対に彼の手に届かなかったあの頃。ステージで踊っていた彼女。群衆を押しのけ、舞台の下で踊り狂った。俺に気づいてくれ。右、左、左 からの 左、左、右と規則正しく律動する腕。あの頃の輝きを思い出している。積もる土。武道館のスポットライトを思い出させるような満月の下、彼はスコップを振るい続けた。


男の愛した少女は、世間がのちに全盛期と称した、街の至る所、ありとあらゆるメディアで見かけない日は無いと言っても過言ではなかったそんな最中、自ら短すぎた命を絶った。あまりにも唐突な死だった。この世に闇が差した。至った経緯について、実に様々な憶測が飛び交った。我こそは識者だ、彼女の心情は手に取るように判る。手に取るように判るブヒ。ある者はスマートに、ある物は泥臭く。真実は闇の中、しかし、彼らの思案する所には、たった唯一の共通項があった。「俺のほうが正しい」と。


墓を掘る男を突き動かす、不毛な議論に終止符を打つ考え。
「お近づきさえ出来れば、全て解決するはずですよ」と。


ザク、ザクとひたすらに地面を掘り続けた。俺だけが理解できる、俺だけが彼女を独り占めに出来る。その衝動に突き動かされながら。バキバキに勃起をしながら地面を掘り進める。下層へ、さらに下層へと。明日も休みだから。


翌朝。力尽きた男の亡骸がそこにはあった。男が張り上げた声、財産らしきものは、誰の脳裏にも傷跡を残すことはなかった。
少女の歌声はいつまでも響き渡る。
片方の魂は空へ空へと登り、もう片方は底へ底へと沈んでいった。
posted by バスケ女 at 01:36| ラスベガス ☁| Comment(0) | 文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする