2015年07月27日

ロマンとハンマー

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結婚指輪を鍛え直して欲しい、という仕事があった。50代ぐらいだと思う。妙齢というやつだろうきっと。いわゆる、ブルジョア、のような、ふっかけてくるような厚かましい感じではなかった。ビロードのハコに入った指輪。ポン、と渡された。町の一角にあるこんなすすまみれ、油まみれの作業場、うだるような暑っちさの中、握らされたそれは、しっかりと覆った手のひらの中で、宙に浮かんでいるような、不安な感じがした。


あのー、これを私がどうしたらよろしいんで…?


「なるべく、これを贈ってもらった当時の形に戻してもらうわけにはいかないでしょうか。この指輪が手元に届いた当時は、もっとしっくりと、私の左手の薬指に嵌ったような心持ちがするのです。でもなぜだか、近頃はぐっと押し込まないと、落ち着かないのです。身につけている間、気持ちまで圧迫されてしまうのです。どうか腕の立つ職人さんの技術で、違和感を取り払ってはもらえませんか?お代は言い値で結構ですので。どうか宜しくお願い致します。」


むずい。こんなにむずい案件は初めて。カッコつけて案件とか言ってみたけども。というか、ご婦人方の肌にじかに触るような、アクセサリーというものをハンマーでどついていいものかね。鍋やら釜やら、そういったもんを均一に慣らしていくのはやったことある、やったことある。というかそれで飯を食べてるので、工業高校出て即ハンマーを振り回しているのである程度自負はある。しかし。


銅板の手持ち鍋、が雑然と並べられている現場に、不相応にも程があるハコが鎮座 ましましている。どうなっていやがる、何でこんな仕事を引き受けてしまったんだろう、という後ろめたさが頭をよぎる。が、なにかこんなイレギュラーな仕事を引き受けたことで始まっていくドラマがあったら面白いんじゃねえか。俗物根性。すすまみれ、油まみれのこんなところにまで運命の糸が張り巡らされるとはな。なんちゃってな、ガハハ、とタバコを買って帰ってきた後輩にラリアット、プロレスとは偉大なコミュニケーションである。


待てよ?


俺みたいな無骨一辺倒の人間のもとに、指輪をもとに戻して欲しい、なんて、ステキな願いを持ってきていただける時点で、なにかウラがあるんではなかろうか。と踏んだ。あっけにとられ、具体的な条件は何一つ聞けていない。仕上がりのイメージについて、おそらく奥様は、なにか定まっているのかもしれない。いや、おそらく、言葉にできていないというだけであって、定まっているだろう。そこにドンピシャで、何も聞かずにそしらぬ顔で、合わせていく。それこそが職人じゃないか。俺が工業高校時代から、工業高校卓球部時代から、何かしら培ってきたものをぶちかますチャンスだ。毎日、鍋を叩いているうちに、俺の中で何かが芽生えているはずなのだ。


ひょい、と。下手投げで。


預かったハコごと、火にくべてみたりして。



リセットなんです。いわば。「もういちど、ここから夫婦生活、やり直してみませんか?」ということなのです。溶けた指輪は、卵焼き用の金型にしてみました。銅製なので、熱伝導がハンパじゃないんす、テリー伊藤さんの弟さんとこにも卸してたりするんす。築地の。知ってます?


そういうことじゃなかった、らしい、今から思えばそうだ。奥様は、たいそう憤慨してらした。たいそう憤慨してらしたどころの騒ぎじゃないよ。何やらステキな着地点を求めていたらしいが。キレたツラはブサイクだった。つまみになる。


今回の行動は、賭けだったのであくまで、後悔していないが、だましだまし、俺みたいな人間にも、ステキに振る舞えるチャンスが巡ってくるんじゃん、と、実感のようなものを握りしめてしまった。へっへ、次があるね。


ハンマーで鍋を均一に伸ばしている。

posted by しきぬ ふみょへ at 22:35| ラスベガス ☀| Comment(0) | 文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年07月10日

玉ねぎ

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夏。



玉ねぎを炒めているんです。これですね、飴色になるまで炒めるんですよ。ただひたすら。フライパンの上でね。ただひたすら。なんでかと言われればですね。美味しいカレーを。美味しいカレーライスを作るためなんですよ。これ。ペースト状になるまで。玉ねぎに含まれております水分が。完全に飛ぶまでね。時間と根気がいるんです。妥協したら全部台無し。1コのことがなあなあになっちゃっただけで。取り返しつかないから。後から悔やんだって遅いので。完璧主義というかね。この木のしゃもじも。かっぱ橋で。昨日。なんでも揃うんですよ。業務用のやつ。業務用のほら。大量に揚げられる。大量に同時に揚げられるやつとかね。いつかは家にね。ドンと置いてみたいもんなんですけど。


話がそれましたね。まだですよ。まだ炒めないと。五感でやるんです。見た目だけじゃなくて。色合いだけじゃなくて。音が変わってくるんですね。きめ細やかになるんですよ。うっとりしちゃうんですね。耳を澄ませてみてください。


うるせえぞこの野郎!!!!!!!!!!!!!!何時だと思ってんだ!!!!!!!!!!!!!!!!


すみません。向かいが小学校なんですよ。まったく。こっちは朝飯作ってんですから。だからガキは困るんですよね。テメェのことしか考えてないの。私はあらゆる可能性を想定してましたね。昔からね。いい加減にして欲しいですね。ちょっと待てよ。そろそろタイミング。そろそろいい頃合いに。いい塩梅になって参りましたよ。汗が止まらないな。クーラー壊れてるんですよ。フィルター詰まってて。掃除したらなんとでもなるんですけどきっと。暑かったら暑かったでね。風流じゃないですか。キカイの力でねじ曲げたくないですよね。「風の」「流れ」と書きますからね。そういったところから来てるんじゃないでしょうか。知りませんけど。


結局。時間と根気が必要なんですね。同じことを言うくせがあるんです。わかっちゃいるんですけど。間が持たないから。玉ねぎ炒めてるんでしたね。



さてさて。こんなもんかな、と思うでしょ。こんなもんかな。と思い出す頃かな。というのは、私も感づいております。だてに生きてないですから。推し量りますよ。推し量りますよ〜?人の気持ちを。実際のところ。私もわからないのです。玉ねぎを 飴色になるまで 炒める という行為を 実行する 自分に 惚れてしまっている 部分が あるのです。へっへ。なんですかね。格好いいじゃないですか?「妥協しない」「徹している」自分。

私はですね。私のこだわりを、私が享受している時に、生きていると感じるのです。



仕事ですか?
posted by しきぬ ふみょへ at 01:17| ラスベガス ☀| Comment(0) | 文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする