2016年09月10日

八神庵さん行方不明

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山頂まで辿りついたら、リュックに入ったカルビーポテトチップスうすしお味 BIG BAGの袋がパンパンに膨らむ。絶対面白い。思う存分ハーッハッハッハ!と笑ってやろう。意気揚々、JR富士中央線河口湖駅で下車。富士山麓に臨んだのは昨日の早朝。しかしどこだここは。

八神庵(やがみ いおり)は群れるのがとにかく嫌だった。終わりの近い爺や婆どもがたむろしている列に紛れて売店で購入した杖を突いてえっちらおっちら登っていくなんぞ八神の血が許さない。五合目までは路線バスも出ていたが目もくれず、単身で草むらを掻き分けていった。

9月中旬の富士、日中、気温もおだやかで草木も青々と生い茂っている。腰の高さほどもある緑を泳ぐように進む。ときおり百式・鬼払い(↓\→A or C)を使った。紫色の炎を纏いながらジャンプする。普段は対空技として使用するこの技。山火事の危険もあったので、普段の2割。斜面のきつい方に向かっていけば山頂につくだろうという目算で最短ルートを一直線に登っていた。つもりだった。

八神庵は普段特に何もしていなかった。年に一度、「キング・オブ・ファイターズ 略称・KOF」という、世界で一番ケンカの強い3人組を決める大会の本部から招待状が家に届くスケジュールは盆と正月の親戚が集まる時期以外は空いていたので大して仲は良くないが暇そうでそこそこ腕の立つ連中を誘って出場した。八神家の血を引いているので、幼少の頃より手から紫色の炎を出せる、という特技があり、そういったルール無用の殴り合いぐらいでしか役に立つシチュエーションも思い当たらなかった。

境遇の似た「草薙京(くさなぎ きょう)」という男と大会でよく当たった。彼が操るのは自分とは対照的にオレンジの炎、皆が思い描くようなイメージの炎を放つ。草薙京の炎に対して俺が出す炎の気味悪いこと。別にこの色にしようって自分の意志で選んだわけじゃないのに、なんで紫なんだよ。マルカワのフーセンガムだって、オレンジが代表を背負っていてグレープは2番手以下だ。

草薙京は必ず同じチームで出場していた。長髪を静電気で逆立てる一芸で知られた「二階堂紅丸(にかいどう べにまる)」、地面をぶん殴って遠距離の相手に衝撃を与える柔道家「大門五郎(だいもん ごろう)」だ。それに比べて。エントリーシートの記名欄を2つ空けたままでポストに投函することもあった。草薙京が「お前いつもコロコロ変わってんな。チーム。頑張れよ」という目で見てきやがる。「ふざけやがって…」が出場の度に積もり積もる。何なんだこの紫色の炎は。指先で燻らせ、もみ消した。しかし、どこなんだここは。

八神庵の活動源は「行き場のない怒り」だった。世間への反骨。シンプルな逆恨み。四方八方を草木で塞がれて為す術なし。
二十歳を過ぎた頃、携帯電話を解約した。父親から、「成人もしたんだから、このままお前の携帯代まで俺の口座から引き落とされるようなら、解約するかてめえの稼ぎで払うかどちらかにしろ」と訓告があった。もちろんのこと同じ八神の血筋を引いており、八神庵の炎がマルカワフーセンガムグレープ味ならば、より紫が濃く、眼に良い成分が豊富なブルーベリーのサプリほど凝縮した炎を放つ父親。純粋な強さでも逆らえなかったのだが、「指図をするな。そこまで言うのなら解約してやる」とやけっぱちに言い放ち、最寄りのソフトバンクショップに連れ添ってハンコを捺した。その日から携帯を持っていない。「このほうが一匹狼の性分に合っている」と行動を正当化していた。もしこの時真面目に職を探す選択をしており、八神庵は気づいてはいなかったが、仮に携帯を持っていたのであれば、今途方に暮れている鬱蒼の中であってもまだ若干電波も入る場所だった。そろそろあたりも仄暗く、冷えてきた。

リュックの中のカルビーポテトチップスうすしお味 BIG BAGを空けるかどうか。気圧で限界まで膨張させたBIG BAGにひとしきりハーッハッハッハ!と笑ったあと、まち針で刺して爆発させもうひとハーッハッハッハ。そのために来たのに。オーザックと迷った。最近のオーザックは内容量が減り過ぎだ。袋の4分の3はガスなんじゃないだろうか。物心ついた時は絶対にもう少しチップスが入っていただろう。これはオーザックのみならずチップス全般に言える話だがな。オーザックならほとんど気体だから、膨張率もすごかろうという予想。近所のまいばすけっとで2つを手に取り、やはりサイズと内容量、とBIG BAGを選んだ。意図しない形での正解。少しずつつまめば大分持つだろう。腹が減る。ひもじい。

「裏千弐百七式・闇削ぎ(↓\→↓\→A or C)」で暖をとろうとも考えたが、体力を消耗したくない。格闘技の試合中なら殴られたり蹴られたりして貯まる怒りのエネルギーも、ぽつねんと山の中で放っておかれたって一滴も湧いてこない。

両足を結ぶ縄。高校時代から未だにつけている。当時周りではミサンガが流行っていた。体育祭、おそろいのミサンガを足首に巻いて一致団結というムーブメントがどこからか、その辺の女子からか。馬鹿な。構っていられるか。八神庵は学生服の革ベルトで左と右の足を縛り付け、格の違いを見せつけた。お前らが足首に巻いている藁が千切れたぐらいで叶うような願いと俺の野望を一緒にするな。高3の体育祭、移動の自由が利かない八神庵の頭上を、大玉が遥か高く通り過ぎていった。クラスメイトの配慮から、八神庵のエントリー種目は1人欠けてもなんとか成立する大玉ころがしのみ。

大玉ころがしにしかエントリーしてもらえていなかった周囲の配慮、が茂みを掻き分けて虎のように襲いかかってきた。ついでに今さら携帯持ってない疎外や大会に誘うメンツの幅が狭いという龍や蛇までも。頭の中のひだが真っ赤に燃えている。草薙!こっちを見ないでくれ!!
頭をかきむしる。内省。八神庵は内省をしていた。今からでも遅くはない。ちゃんとやれる。間違っているところを直していこう。落ち着け。そこまで取り返しの付かないところまでは来ていないだろう。人生しかり。登山しかり。

今、 明らかにおかしいところは?そうだ。両足の縄をほどいてみた。なんてスムーズに動けるんだ。すべて自分が無理やり枷を作ってただけのこと。吸って吐いてが楽で楽で。馬鹿馬鹿し。ハーッハッハッハ!おもしろ。ポテチうま。「誰か居ませんか〜!?」と叫んだら、「はいは〜い?」と返事が聞こえた。下山途中のツアーのガイドさんだった。案外ずっと正規ルート沿いで来れていたらしい。恥ずかし。「いやー、焦ったんですよ!ちょっと迷っちゃったかな?なんつって!」八神庵、生涯初の「なんつって!」が飛び出した。↓\→↓\→A or Cで出そ。次から。
posted by JET at 01:59| 文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする