2017年03月19日

A

2017/2/25(土)彼女が出来た。性懲りもなく、何度滑落に巻き込まれようが熊にぶん殴られようが、女性との平穏無事を望む自分の学ばなさに呆れる。また半袖短パンスニーカーで富士に挑んでいる。「前回は熊に襲われて死んでしまったから」という理由でポケットに鈴を忍ばせている。根本的な性根の是正が喫緊の課題である。



職場の同じ島で仕事をしている新人の女性、このブログでは「麻里」という仮称でしばしば書いた。昨年のクリスマスに中之島・中央公会堂のイルミネーションの下で振られたが、その後何度か遊びに出かけ、先週漸く了承を頂くこととなった。やってることは堀北真希に対する山本耕史のアプローチとさほど変わらないのだが、気持ちが悪い僕がやると不思議と気持ち悪くなってしまう。



その日の夜一緒に飲んだ。そろそろお互いに終電を気にする時間だ、と頭の片隅で気にしつつも、「そろそろ(時間)大丈夫?」などと気を遣うという腕力への自信のなさから発する気遣いを酒の力で押さえ込み、いつの間にやら帰る時間が無くなっちゃったねに持ち込もうとしていた。ろくでもなく「性」に理由を与えて正当化させようとするアンフェアな行動である。



実家ぐらしの麻里がお泊りの許可を得た報告を受ける。残り電池残量10%を切っているiPhone6を駆使し、それを悟られぬように近場のラブホテルを探した。手を握り、位置情報アプリの指し示す方角めがけて前のめりに突き進んだ。辿りついたホテル「NEXT」のエントランスで婆に「後15分ほど待ってもらえれば部屋が空く」旨告げられる。僕と麻里は丸テーブルを挟み向かい合わせに腰かけて待った。婆からお呼びがかかり、前払い6,500円也を支払おうとする。昼食のハーブカフェでランチプレート(お手製シフォンケーキ付)、晩に「女性でも気兼ねなく」利用しやすい内装に凝った焼き鳥屋でセセリ・ソリ・れんこんつくね各2本、セロリの浅漬け、スモークサーモンのサラダ、ウーロン茶・ゆず酒ソーダ割り・日本酒(春鹿)1合・ビール(キリンラガー)・ハイボール(角)ジョッキ1杯ずつ。2件目のショットバーでナッツ盛り合わせ、カシスオレンジ(カシス多目)・ウイスキー水割り2杯(ラフロイグ・シーバス)を現金で支払っており財布に2,000円しか残っていなかった。クレジットカードを出すと、婆は「すんませんウチカード取り扱ってないんですよ。いまどきめずらしいでしょ。すんませんねえ、すんませんねえ、斜向かいの”ラヴィアン・ローズ”さんならいけるかもわからないんですけど。ほんますんません」とのたまった。15分待って今さらラヴィアン・ローズさんへ向かうにも、間もバツも悪い、空室があるかどうかもわからない。僕は麻里に無心をし、残り4,500円を出してもらった。『せめて少しは格好つけさせてくれ』とジュリーは歌っていたが、日常に潜む「ダサ」の罠にことごとく引っかかっており、ほんの少しでも気取った真似をしようとすれば神からイカヅチを落とされる。


結論から書くと「A」までしか出来なかった。僕は意中の女性とホテルに入り、「A」までしか達せない者である。体調が悪いわけでもなく(勃起の不全でもなく)、羞恥に面食らって立ち尽くしたわけでもなく、女性側の周期的な生理現象に寄るものでもない、只々只管に「拒否」をされた、NOの札を出されて身動きが取れなくなってしまったのである。然しながら、ベッドの中で(性交渉に失敗した身分の者でありながら)「こちらとしても好意を抱き続けたままでこのように会社帰りや休日にアポイントメントを取り付け食事をしたりレジャースポットに足を運んだりを続けるのはむしろ苦痛である、中途半端な関係は具合が悪いので正式に、今日を持って交際関係を始めたい」と伝えた。戸惑っている様子だったが、首を縦に振ってくれた。


容姿も内面も美しく、よく笑い気の利く女性と同じベッドで朝まで共に過ごせただけで何をお前は不満なことがあるのかと中学生時代の自分がこの光景を見守っていたのであれば苦言を呈していたであろう、「A」で十分だろう、いわんや「B」以上をやだ。僕は結局チノパンの下の男性器に血流が集まるのが嫌で嫌でしょうがなかった。性欲というものに振り回されたくない。男性器とオートバイのハンドルをタコ糸で縛り付けてサーキットを思い切り走って欲しいとすら思う。こいつの所為で僕はどれだけの金銭と時間を無駄にし、女性と接する上で間違いを犯しただろうか。犯したくないのだ。本日これをもって終了とす、と毎度のごとく戒めては破戒の繰り返しである。



日が昇るまでも「A」までは許されたが結局それまでで、麻里はシャワーも浴びず朝まで白いニットのワンピースから着替えることはなかった。チェックアウト指定時刻は正午だったが、朝9時頃、午後から美容院の予約が入っていた麻里と店を出、ドトールでモーニングセットを食べ、各々家路についた。



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2017/3/1(水)、会社の総合朝礼で人事発令があり、来年度の昇格・異動者の発表がなされた。うちの会社では昇格試験があり、僕は今年から試験を受けられる勤続年数に達していた。初年からいきなり受かる者は極稀である、という声もあり、昇格できたら儲けである、と不合格してしまった場合に保険もかけつつ臨んだ。内容は時事問題や一般常識や小論文「リーダー(主任)に昇格した際の心構え」など、取り立て特筆すべきところもないものだった。それなりに手応えもあった。



昇格者は朝礼前日に人事部から通達がある、という情報も流れており、前日定時までにお呼ばれのなかった自分は恐らくは不合格だろう、と前もって覚悟は出来ていたのであったが、試験(1月)から発表までに上記のように事情が変わり、パブリックの場で無能の烙印を捺されるのが居た堪れない。それだけに及ばず、同じ社屋で働く自分以外の同期並びに、昨年中途採用されたジャルジャル福徳似の男まで「リーダー(主任)」に春から昇進の旨が発令された。僕は頭蓋骨の裏べりに一味唐辛子でも塗りつけられているような、夏目漱石の『それから』で親兄弟から勘当された主人公が電車に乗って職探しに出かけた場面・心情のような、「目の前が真っ赤になる」錯覚に襲われた。よく考えてみると、あれだけ拒否をした「忘年会でのPPAP」をきっちりこなした面々だった。格好が、悪い。列の後ろに並んでいる麻里の目線が背中を燃やすように熱い。



「中学の卒業式前日に、全校生徒の観ている前でヤンキーに胸ぐらを掴まれ振り回される」「高校のマラソン大会で、サボってキックボードに乗っている奴にすら抜かれてビリになる」「初めて行った合コン・ダーツバーで、誰とも喋れず1人で”ダーツの面白い投げ方”をやるも見向きもされない」「インターネットの大喜利大会で、優勝だけでも寒いのに連覇してしまう」など、大方の「ダサ」実績は解除してきたつもりだったのだが、まだ「彼女の目の前で、自分のみ昇進できず」が残っていた。彼女と普段話す中身においても「昔からの知り合いが小説を出し、10万部も売れているらしい」「友だちが芸人をやっており、今度飲みに行く」など、浮世離れした知人・友人を自慢げにあげつらってしまう。本当にダサいと思う。


加えて愚かだから気づかなかったが、同じフロアに交際中の女性が働いている、という状況には逃げ場がない。ミスや叱責など全て筒抜けである。重く責任がのしかかっているじゃあないか。これは一体、どうしよう。



麻里には当日の終業後に慰めの言葉を掛けてもらったが、僕はその日の午前死んだような目をしていたらしい。「”リーダー(主任)に昇格した際の心構え”について書いたけれど、昇格してないから心構えいらないわ」、と己の無能をあえて曝け出す道化をやったが、生活に結びつく以上そのようなおふざけをするべきではない。と解っていながら選択肢が1つしか表示されないのだ。”いつも、なぜおれはこれなんだ、犬よ、青白いふしあわせの犬よ。”。交際関係に至ろうが至るまいが苦悩は終わらず、一先ずは足を今まで向けなかったビジネス本の棚に向かわなくてはならない。
posted by しきぬ ふみょへ at 19:56| 文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする