2016年03月04日

坂口安吾『桜の森の満開の下』


1947年 日本


何故「満開の桜の森の下」ではいけなかったのか、日本語の耳馴染みの他に、「満開」の時期が怖いから、「満開の下」に坐すと男は自我が吹き飛んで居なくなってしまうから、その一瞬を切り取ろうとする意味合いで持ってこんなタイトルをつけたんじゃないかなという、女がわーわー言い出したらマジでやばいねっていう気持ちで読んでください。


山賊がメチャクチャ綺麗な女の連れの男を刀でぶっ殺して、今日からお前は俺の女だと指をさす。女ははいと応える。女を背負って山に持ち帰る。なぜならば恋をしてしまったという。道中の山々、自然やらが美しいので、こんなステキな山を独り占めできるんだぜ俺は、と鼻高々でおぶった女をぐるりと一周させる。女は、岩だらけでなんにもおもんねーし、いいからとっとと走って家まで連れてけとごねる。山道をバカ疲れながらやっとこ家に帰る。男は女のことが好きなので体がバラバラになっても平気だぜと強がる。いままでに連れて帰った嫁どもがなにごとかと震えている。今惚れた、連れてきた女が「首をはねろ」と頼んだので、言うとおりに、いちばんブスだけを残して刀で斬った。一通りスコアを稼いだあと、疲れに疲れ果てた状態で惚れた女が目に入る。"目も魂も自然に女の美しさに吸いよせられて動かなくなってしまいました。けれども男は不安でした。どういう不安だか、なぜ、不安だか、何が、不安だか、彼には分からぬのです。"そして"桜の森の満開の下です。あの下を通るのに似ていました。"女に抱いた感情が、童貞なので(ギャグでなく、女を手に入れようとはしても、犯そうという描写がまったく出てこない) 桜の森の満開の下 に喩えた。何が何だかわからないものを何が何だかわからないものに喩えた。


このピンクな気持ちを克服するために、"今年はひとつ、あの花ざかりの林のまんなかで、ジッと動かずに、いや、思いきって地べたに坐ってやろう"と決意する、ただ、女にバレないように。
生きていくために必要な栄養やビタミンやミネラルなどを動物を殺した命、肉でバンバン与えまくり、ほっつき回っている都会から山にとぼとぼ旅してる連中をバンバン殺し、身ぐるみを剥がし、きれいなアクセサリーをほれ、と渡す。女はまだ足りない、私は都会に帰りたい、クサいとわめく。
”この生活、この幸福に足りないものがあるという事実に就て思い当るものはない"

男は弱いやつを殺す殺す、こんだけ殺して俺が死なないのなら、己の「強さ」が女の「美しさ」に匹敵するんじゃないか?と。勘違いで、しきぬ ふみょへはアイドルのことをもっともらしく語って「ハリボテの知」で一生懸命努力するアイドルと並走した気になっている野郎が大嫌いなんですけど、さておき、女がそれだけお前が強いなら、ワタシを京都まで連れて行っておくれ、と頼む。男は承知するも、都に出るまでには桜をくぐらないといけない。さっきの決意がいざ目の前に振りかかるとたじろぐ。しかし、このおぼろげなきっかけを、女に打ち明ける。俺は変わるんだぜ、という男が絶対に女にバラしてはならないやつです。

"「桜の花が咲くのだよ」
「桜の花が約束したのかえ」
「桜の花が咲くから、それを見てから出掛けなければならないのだよ」
「どういうわけで」
「桜の森の下へ行ってみなければならないからだよ」
「だから、なぜ行って見なければならないのよ」
「花が咲くからだよ」
「花が咲くから、なぜさ」
「花の下は冷めたい風がはりつめているからだよ」
「花の下にかえ」
「花の下に涯(はて)がないからだよ」
「花の下がかえ」
男は分らなくなってクシャクシャしました。"


男は、マジでこれが理由とかで無しにやりたいのだ、という理屈を、は?なんで?と女からあらためて問いたださされると、たしかに果たして何故だ?と首をひねって会話が途絶えて気まずくなって女にバカにされてしまう。"刀で斬っても斬れないよう"な女の苦笑いを前にして完全に無力になる。これまでそこらへんのNPCなら、兵卒ならかたっぱしからぶっ殺してたのに、好きな女の苦笑いなんていう物理的になんの抵抗にもならないものの前になすすべがない。男は女に否定されて、結局決意が砕かれ、咲いている桜の下を目をつぶってダッシュでくぐり抜ける。女とブスの下女と一緒に、都に住むことにした。


女は、生首を使ってごっこ遊びがしたいので、あらゆる役職の人間の生首を持ってきてちょうだいと男に丸投げする。坊主の首を絶対に悪役にする。坊主なんてこの世で一番つまらないので、女はそのへんの性悪さにはかなり敏感である。それでも、男がいくら生首を貢いでやっても、愛情を注いでやっても、飽きる。"その先の日、その先の日、その又先の日、明暗の無限のくりかえしを考えます。彼の頭は割れそうになりました。それは考えの疲れでなしに、考えの苦しさのためでした。"これだけ日々一生懸命に首をはねていても、女は次、よっしゃ次と言うばかり、思い切ってこんなに苦しいのなら、よっぽど女の首こそはねてやろうとクソがよ、を刀を握るも、それが出来ない。別れを切り出す。

が、女は、男のノスタルジーをくすぐる=初めて山を登った時の、男が有頂天だったころの記憶を呼び戻させることで簡単に心の陰茎を握ることが出来ることを知ってしまっている、つまり、どうして俺の気持ちがわかったんだ、さては俺に惚れてるな、の曲解の曲の部分、カーブをいともたやすくグイグイ曲げやがる。女は、山に帰ってもいいと言う。

ガハハ、初めて出会った頃のことを思い出しちゃったよ、と男は女を抱きしめた、したらなぜか、女が紫色の気持ち悪いババアになった。は?と首を思い切り男の力で絞め、女の生命活動を終わらせる。その背中に桜の花びらが落ちてきた。男は冒頭で塊で持っていた気力がゼロになり、桜の森の満開の下で膝ついて力無くへなへなと跪く。ということはここで、俺が桜の森の満開の下で坐して満開に立ち向かってやる、という、女がこれまで自分の所有物だった頃に抱いていた、「俺、実はこれをやってみたいんだ」という願望に決着がつく。


ここでざっくばらんにざっくばらんに書いたことはスカスカだし、ともかくも、俺は女の人が読んだ時に何を思うのか気になりまくるので、Twitterアカウント「njomooo」にリプライでのご意見をお待ちしております。
posted by JET at 01:31| | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする