2016年05月08日

すず

忙しいところ申し訳ないね、ちょっと座っておじさんの話を聞いてくれ。君は昔、おじさんたちの仕事にケチをつけてきたことがあった。「他人の声を拾うだけの仕事を続けられるなんて理解が出来ない」と言った。それはそうだろう。煙草いいかい。君はそんだけ若くしておじさんの稼ぎなんかとうに超えてしまっている。こうやってストレスを発散するためにおじさんは煙草を吸っている。この銘柄がいまいくらか知っているかい。430円。1日1箱単純に吸ったとしたらひと月で13000円ちょいだね。君の声を何時間か拾って、ひと月ぶん。おじさんはやっと精神がリラックスできるんだ。


人は皆誰かに支えられて生きているというね。だけれども、おじさんの考えは少し違う。おじさんはすずちゃんの一挙手一投足を追いかけて、日々を過ごさせていただいている側の人間なんだ。支えているなんてとんでもないね、おこがましい。これに懲りたりへこたれたりなんかして、スタッフに愛想を振りまくようになってはいけないよ。浮かんだままに言葉を繰り返してほしい。この現場で、君がふっと仕事が嫌になって、世間の声がうるさくなって、居なくなっちまったら撮影は中止、つまりおじさんは食いっぱぐれる。お気に入りの銘柄が吸えなくなってしまうんだ。だから、そのままで居てほしい、いやむしろ、そのままでいる必要がある。


おじさんが「人の声を録音する仕事に就きたい」と意識しだしたキッカケはね、どうしても「人の心の声」が聴きたい、っていうのがあったからなんだ。ちょっとカッコつけてるかな。機械の性能は良くなっていく。昔おじさんが駆け出しの頃なんか、こーんなごっつい竹竿みたいなマイク振り回してたし、体力に自信がなかったから現場に来る度に憂鬱だった。でも今じゃこんな小っちゃくて軽いやつでクリアに録れてしまうから、おじさんがゼイゼイ息切らしてたあの頃なんだったんだよ、ってちょっと舌打ちしたくなるけれど、大変だった時代を経ているから、「今、努力している人の声」が聞こえるようになったんじゃないかなって、こじつけみたくなってたらゴメンね、でもそう感じている。「人の心の声」は、いくら機械が進化していっても聞き取れるものじゃないんだね、自分が努力して、成長した。要は経験かな。まだまだ勉強するべきことは多いんだよ本当に。嘘の気持ちじゃなくて、本当に今マイクの前の対象が「何を感じているか」を知りたいから、君が「他人の声を拾う」だけの職業に、意義を感じている。おじさんの食いっぱぐれの話はちょっと伝え方が不味かったかな?お金は儲けてないから、実際に生活してかなきゃならないんで、お金半分、気持ち半分で仕事をしてる。その「気持ち半分」のところをわかって欲しかったなっていう、長くなってごめん!台本覚えなきゃだよね、俺もスタンバってくるから。じゃあ本番よろしくお願いします。


すず…嗚呼すず…
posted by しきぬ ふみょへ at 23:03| 文章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする